11月20日、財政制度等審議会は「平成31年度予算の編成等に関する建議」を財務大臣に提出しました。財政制度等審議会は有識者で構成する財務大臣の諮問機関で、国の財政のあり方について毎年建議を行っています。

 今回の建議は平成最後ということで、平成時代の日本の財政の総括がまとめられていますが、その内容がこれまでの国の財政政策を厳しく批判する異例の内容となっています。結果として将来世代に莫大な借金を負わせることになってしまったことに対して、痛恨の極みという想いを込めた言葉が述べられています。

 日本では、平成2年には166兆円であった国債残高が、平成30年には883兆円と5.3倍に膨れ上がりました。国債は60年にわたって返済されるものですから、新たに発行した国債の返済は今の若者やこれから生まれてくる子や孫の世代までも負担を負うことになります。

 近年大きく国債発行額が膨らんでいるのは、年金や医療費等の社会保障の負担が増大し、毎年の税金の収入ではカバーできず、多額の国債を発行しているからです。支出を抑えることができないのであれば、国民の税金負担を増やして賄わなければならないのが本来の姿ですが、現在の痛みを避け続け、国債を発行することにより負担を先送りして、それが雪だるま式に増加してきているのが現在の姿です。

財政制度等審議会「平成31年度予算の編成等に関する建議」

https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/report/zaiseia301120/index.html

 建議自体は相当なボリュームのある書類ですが、総括の部分は「Ⅰ.総論」として最初の5ページにまとめられています。この総括については、全ての大人が読む必要があると思いまし、学校でも子どもたちに教えるべき内容だと思います。そして、この反省を踏まえて、平成の次の時代の日本の税や財政、社会保障がどうあるべきかについて全国民が考えていくべきだと思います。

~以下、抜粋

「益々増大する負担を益々減少する将来世代に先送りすることにより、将来世代1人当たりの負荷は重くなっている。負担先送りの罪深さはかつての比ではない」

「現在の世代が「共有地」のように財政資源に安易に依存し、それを自分たちのために費消してしまえば、将来の世代はそのツケを負わされ、財政資源は枯渇してしまう。悲劇の主人公は将来の世代であり、現在の世代は将来の世代に責任を負っているのである。」

「先人達や、新たな時代そして更にその先の時代の子供達に、平成時代の財政運営をどのように申し開くことができるのであろうか。」

 言うまでもなく、税財政運営の要諦は、国民の受益と負担の均衡を図ることにある。他方で、誰しも、受け取る便益はできるだけ大きく、被る負担はできるだけ小さくしたいと考えるがゆえに、税財政運営は常に受益の拡大と負担の軽減・先送りを求めるフリーライダーの圧力に晒される。平成という時代は、人口・社会構造が大きく変化する中で、国・地方を通じ、受益と負担の乖離が徒に拡大し、税財政運営がこうした歪んだ圧力に抗いきれなかった時代と評価せざるを得ない。

 より問題を根深くしているのは、財政問題の解決には国民の理解が不可欠であるにもかかわらず、受益と負担の乖離が、国民が財政の問題を自らの問題として受け止めることを困難にし、財政問題の解決をさらに遠のかせてしまっているおそれがあることであり、憂慮に堪えない。

 新たな時代においては、財政健全化どころか一段と財政を悪化させてしまった平成という時代における過ちを二度と繰り返すことがあってはならず、手をこまねくことは許されない。

 一方で、将来を担う若年層に対する財政・租税教育も充実・強化すべきである。受益と負担の構造、我が国財政の深刻な状況、財政・社会保障制度の持続可能性が国家的課題であること等について、将来を担う若年層が共通の知識として学び、当事者意識を持って捉え、考えてもらうことが重要である。

 政策決定の場において将来の世代の利益を代弁する者がいないということは、これまで必ずしも大きな問題として捉えられてこなかった。しかし、我が国の歴史的な財政状況の悪化は、まさに将来世代の代理人が今必要であることを明らかにしている。当審議会は、現在の世代の納税者の代理人であるとともに、将来世代を負担の先送りによってもたらされる悲劇から守る代理人でありたい。そのため、平成の時代に当審議会が果たしてきた役割、果たしえなかった役割を真摯に見つめ直し、新たな時代を見据え、発信力の強化などを含め、体制や運営の在り方を改革していくことを辞さない覚悟である。

~抜粋ここまで~

 なお、財政制度等審議会は、、財政再建の必要性を若者も含めて世の中に直接訴えるため、インターネット交流サイト(SNS)を使った情報発信を検討しているとの発表もありました。